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アクアモザイク

月刊誌「天穹」
  令和六年  主宰詠

【10月号】

 夕焼空谷中に今も紙芝居

 裸電球金魚掬ひの子ら照らす

 梅莚大黒さんが四つん這ひ

 ​岨道を​たどり裏見の滝拝す

 パスポートの語る半生秋燕

 

【9月号】

 黒羽の川風抜くる鮎の茶屋

 骨抜くや波の形の鮎を伸べ

 黒南風の奥に軍鼓を聞く古関

​ 門灯の灯る真昼や梅雨寒し

 芋銭なら絵筆の遊び梅雨鯰

 

【8月号】

 蒼海を白帆疾走夏来る

 文机の窓の光彩柿若葉

 脱稿の後の放心新茶の香いとト

​ 卯波立つ浜は真砂女の恋の浜

 空海の大悟の磯や卯月波大大寒

            

【7月号】 

 のどけしや瀬戸に手釣の白帆舟

 父母の恩おもふ遠忌や遠蛙

 お遍路と足湯分かつも道後かな

 花びらをしばし留むる長寿眉

 枝蛙明恵の寺に只管打座

【6月号】

 み仏のやうな福耳春日透く

 光悦展へ連れ立つ妻の春ショール

 光悦の南無妙の文字あたたかし

 糸遊や路面電車のゆらぎ来る

 ゆられゐる心胡蝶や半仙戯

​【5月号】

 梅が香や花から花へ鳥の嘴

 炎立つさまに牡丹の芽のほぐる

 馬光り草駒返る都井岬

 弾痕の蛤御門余寒なほ

 句座といふ心の寄りや春愉し

【4月号】

 日向ぼこ仲間や鳥を待つカメラ

 白息の托鉢僧へ喜捨の音

 大股に歩く一駅春隣

 大寒や諏訪湖に神の恋路伸ぶ

 盆梅の蕊の賑はひ二人の居

【3月号】

 冬の波軍艦島に牙を剥く

 記念館守る切つ先枯木立

 裸木や空を鏡の立ち姿

 寒空をいそいそ句座へ卒寿翁

 義士会に二日遅れの香を焚く

【2月号】

 製材の杉の匂ひや北時雨

 鈍色の海の遠吠え冬はじめ

 薄味を吹いて同郷煮大根

 耳立てて荒野の声を聞く兎

 結社誌に己が歳月年送る

【1月号】

 たとふれば花の禅師よ吾亦紅

 草紅葉作者不詳の万葉碑

 噺家の色紙愛でつつ走り蕎麦

 本膳は店主の俳話菊膾

 師系てふ縁の糸や実万両

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